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浦和地方裁判所 昭和58年(ワ)761号 判決

原告

天明文子

原告

天明春華

右法定代理人親権者

天明隆二

同 母

天明文子

原告ら訴訟代理人弁護士

柿本啓

山口紀洋

被告

木村龍弥

被告

木村育造

被告ら訴訟代理人弁護士

加村啓二

岡村茂樹

主文

一  被告らは原告文子に対し、各自、金二七九万三三九一円及び内金二五四万三三九一円に対する昭和五六年四月三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは原告春華に対し、各自、金三五四万一二九四円及び内金三二二万一二九四円に対する昭和五六年四月三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告らの連帯負担とし、その余を原告らの負担とする。

五  この判決は、第一、第二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告文子に対し、各自、七五三万三〇二七円及び内金六五五万〇四六一円に対する昭和五六年四月三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは原告春華に対し、各自、七八八九万二二四一円及び内金六八五九万九八一四円に対する昭和五六年四月三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  第1、2項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  次のとおり交通事故(以下、「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時  昭和五六年四月三日午後四時五〇分ころ

(二) 場所  埼玉県上尾市大字上二八一番地先の国道一七号線上

(三) 加害車  普通乗用自動車(以下、「被告車」という。)

右運転者 被告龍弥(当時一七歳)

(四) 被害車  普通貨物自動車(以下、「原告車」という。)

右運転者  原告文子

同乗者  原告春華

(五) 態様

被告車が大宮市方面から熊谷市方面に進行していたところ、同車両前部右側が、前方において右折のため停車していた原告車の左後部に追突し、その衝撃により原告車を右前方対向車線に押し出し、同車線を大宮市方面に向って進行してきた大型セミトレーラーに衝突させた。

2  責任原因

(一) 被告龍弥

被告龍弥は、本件事故当時一七歳であり、被告車を無免許で運転していたものであり、未熟な運転技術、前方注視を怠った過失により本件事故を発生させた。

(二) 被告育造

被告龍弥は、本件事故以前に無免許で母木村和穂(以下、「和穂」という。)所有名義の被告車を両親に無断で一〇回以上も運転していたのであって、被告龍弥の父母であり、当時親権者であった被告育造夫婦は、被告龍弥が無免許運転をしがちであることを認識していたものであり、被告龍弥は和穂から右無免許運転につき注意を受けていたのである。従って、被告育造は、親権者として被告龍弥が無免許運転をすることのないよう教育し、被告車の鍵の管理を厳重にするなどして被告龍弥を監督すべき義務を負っていたものであり、本件事故は被告育造が右義務を怠った過失により発生したといえる。

3  受傷、治療経過及び後遺症

(一) 原告文子

原告文子は、本件事故により、頭部、顔面打撲、右足挫創、頸椎捻挫の傷害を負い、次のとおり、入院、通院をして治療を受けた。

(入院)

昭和五六年四月三日から同月一〇日まで(八日間)武重外科整形外科(以下、「武重医院」という。)

(通院)

同月一一日から同年一〇月一三日まで(六か月間、通院回数一〇三回)

同医院

昭和五七年八月二五日から昭和五八年二月一八日まで(六か月間、通院回数二七回)

上尾中央総合病院(以下、「上尾中央病院」という。)

(後遺症)

後遺症としては、頭、背中の鈍痛、疲労感、脱力感等の神経症状が残った。

そのため、本件事故以前は、夫が経営する金型製作業につき重量金型の運搬、工作機械の操作等の作業をしていたが、右事故後ほとんど現場の作業ができなくなった。

原告文子の右後遺症は、自賠法施行令後遺症害等級表(以下、「等級表」という。)の一四級一〇号に該当する。

(二) 原告春華

原告春華は、本件事故により、頭部打撲、頸部捻挫、両下肢不全麻痺等の傷害を負い、次のとおり、入院、通院をして治療を受けた。

(入院)

昭和五六年四月三日から同月一〇日まで(八日間)

武重医院

(通院)

同月一一日から同年一〇月一三日まで(六か月間、通院回数四五回)

同医院

(入院)

同年一一月二七日、同月三〇日から同年一二月一二日まで(のべ一四日間)

上尾中央病院

(通院)

同年一二月一三日から昭和五八年四月二二日まで(約一年五か月間、通院回数五三回)

同病院

同年五月一二日から昭和五九年二月二日まで(期間約八か月間、通院回数約一六回)

大宮赤十字病院

同年二月六日から少なくとも同年一一月二八日まで

上尾中央病院

(後遺症)

後遺症としては、頭、背中、肩、腰の不定期な激痛、鈍痛及び両下肢不全麻痺等の重篤な神経症状が残った。

そのため、朝一人で起床できぬことがあり、親に抱き起こされ、マッサージを受け痛みがやわらぐと登校するということがしばしばであり、痛みがとれないと欠席せざるをえない。登校しても、激しい体育ができぬため見学せざるをえず、精神集中も困難になっており、また、掃除、給食当番等ができぬため同級生から非難されるなど学校において著しい不利益を受けている。

原告春華の右後遺症は等級表の七級四号に該当する。

4  損害

(一) 原告文子

(1) 治療費 一万三二五九円

(イ) 武重医院関係は、被告ら側で支払ずみである。

(ロ) 上尾中央病院関係

一万三二五九円

(2) 入院雑費 四八〇〇円

一日当たり六〇〇円、入院期間八日間

(3) 通院交通費 二万八七〇〇円

(イ) 武重医院関係(距離約五キロメートル、自家用車使用、往復一回二〇〇円、通院一〇三回) 二万〇六〇〇円

(ロ) 上尾中央病院関係(距離約七キロメートル、自家用車使用、往復一回三〇〇円、通院二七回) 八一〇〇円

(4) 休業損害 一〇五万九〇〇〇円

原告文子は、本件事故当時、夫の自営する天明精機製作所に勤務し、工作機械を操作して金型の製作等に従事していたが、前記受傷及び治療のため、昭和五六年四月三日から同年一〇月一三日まで(武重医院通院中止時まで)(六か月間)、全く仕事をすることができなかった。

原告文子の実質的な休業損害は少なくとも全年令平均給与額を下回ることはない。

全年令平均給与額は月額一七万六五〇〇円であり、その六か月分は一〇五万九〇〇〇円である。

(5) 逸失利益 三四九万四七〇〇円

原告文子は、前記後遺症により労働能力の五パーセントを喪失した。原告文子は、昭和五六年一〇月一四日現在(休業損害の対象期間の翌日)三四歳であったから、労働能力喪失期間は、六七歳までの三三年間である。

原告文子の平均給与額を前記のとおり月額一七万六五〇〇円として逸失利益を計算すると、

17万6500円×0.05×12×33=349万4700円

となる。

なお、将来、年五パーセント以上の物価上昇が予測されるから中間利息の控除はしない。

(6) 慰謝料 一九五万円

入通院分 一二〇万円

後遺症分 七五万円

(7) 弁護士費用 九八万二五六八円

原告文子は、原告ら訴訟代理人弁護士に本件事件処理を依頼し、報酬として請求額の一五パーセントを支払うことを約した。

前記(1)ないし(6)の合計額は、六五五万〇四五九円であり、その一五パーセントは九八万二五六八円である。

(8) (1)ないし(7)の合計額

七五三万三〇二七円

(二) 原告春華

(1) 治療費 七万〇九九四円

(イ) 武重医院関係は、被告ら側で支払ずみである。

(ロ) 上尾中央病院関係

七万〇九九四円

(2) 入院雑費 一万三二〇〇円

一日当り六〇〇円、入院期間二二日間

(3) 通院交通費 三万七七〇〇円

(イ) 武重医院関係(往復一回二〇〇円、通院四五回) 九〇〇〇円

(ロ) 上尾中央病院関係(往復一回三〇〇円、通院五三回) 一万五九〇〇円

(ハ) 大宮赤十字病院関係(距離約二〇キロメートル、往復一回八〇〇円、通院一六回) 一万二八〇〇円

(4) 逸失利益 五八一一万七九二〇円

原告春華は、前記後遺症により労働能力の五六パーセントを喪失した。原告春華は、本件事故当時九歳であり、労働能力喪失期間は、一八歳から六七歳までの四九年間である。その間の平均給与額は少なくとも前記月額一七万六五〇〇円を下らないから原告春華の逸失利益を計算すると、

17万6500円×0.56×12×49=5811万7920円

となる。

なお、将来、年五パーセント以上の物価上昇が予想されるから中間利息の控除はしない。

(5) 慰謝料 一〇三六万円

入通院分 二〇〇万円

後遺症分 八三六万円

(6) 弁護士費用

一〇二九万二四二七円

原告春華は、原告ら訴訟代理人弁護士に本件事件処理を依頼し、報酬として請求額の一五パーセントを支払うことを約した。

前記(1)ないし(5)の合計額は六八六一万六一八三円であり、その一五パーセントは一〇二九万二四二七円である。

(7) (1)ないし(6)の合計額

七八九〇万八六一〇円

5  よって、原告文子は、被告らに対し、民法七〇九条による損害賠償請求権に基づき、各自七五三万三〇二七円及び内金六五五万〇四六一円に対する本件事故日である昭和五六年四月三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告春華は、被告らに対し、民法七〇九条による損害賠償請求権に基づき、各自七八八九万二二四一円及び内金六八五九万九八一四円に対する本件事故日である昭和五六年四月三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、(一)ないし(四)の事実は認め、(五)の事実は争う。

2(一)  同2(一)のうち、被告龍弥が本件事故当時一七歳であり、被告車を無免許で運転していたことは認め、その余の事実は否認する。

(二)  同2(二)のうち、被告龍弥は、本件事故以前に、無免許で和穂名義の被告車を両親に無断で運転していたこと、被告育造夫婦が被告龍弥の父母であり、当時親権者であったこと、被告龍弥は和穂から無免許運転につき注意を受けていたことは認め、その余の事実は否認ないし争う。

被告車は、和穂が被告育造の居宅とは異なる家に保管していたものであり、被告育造は、被告龍弥の無免許運転の事実を認識していなかった。従って、被告育造は、被告龍弥の無免許運転について監督できる状況になかったから監督義務を負っていなかった。

3  請求原因3の事実は不知。

4(一)  同4の事実は否認ないし争う。

(二)  原告春華の傷害について

原告春華は、本件事故の三か月前にも、追突事故により負傷し、武重医院に通院していた。本件事故は、前の事故による傷害の完治前に発生したから本件事故による原告の春華の損害については公平の原則により減額されるべきである。

三  抗弁

本件事故の発生については、次のとおり、原告文子にも過失があった。

1  本件事故直前、原告車には白いワゴン車が後続し、その後方を被告車が適正な車間距離をおいて進行していた。被告龍弥は前方を注視して被告車を運転していたが、白ワゴン車が急に左の方向指示器を点灯することなく減速もせずに左側に進路変更した直後、前方約7.6メートルの至近距離に停車中の原告車を発見し、ハンドルを左に切ったが間に合わず、被告車を原告車に追突させた。

右の事実から推認すれば、原告文子に右折の方向指示器を点灯せずに急停車するという過失があったことにより、白ワゴン車は左に進路変更できたものの、その後方の被告龍弥(被告車)は、車高の高い白ワゴン車のせいで事故直前まで原告車を発見できず、本件事故が発生したと思われる。

2  また、原告文子は、本件事故当時、対向車線の状況を適確に判断してすみやかに右折すべき注意義務を怠った過失があった。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は否認ないし争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1(一)ないし(四)の事実は当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、請求原因1(五)の事実が認められる。

二1  被告龍弥

〈証拠〉によれば、被告龍弥は、前方を注視して運転進行すべき注意義務を怠った過失か、適切な車間距離を保持して運転進行すべき注意義務を怠った過失により本件事故を発生させたと認められる。

よって、民法七〇九条により、被告龍弥には本件事故により原告らが蒙った損害を賠償する義務がある。

2  被告育造

〈証拠〉によれば、被告龍弥は本件事故当時一七歳の高校生であり、自動二輪の免許は有していたものの、普通免許は有しておらず、昭和五五年一二月下旬ころから本件事故までの間に一〇回くらい母和穂名義の被告車を、両親に無断で運転したことがあったこと、被告龍弥は本件事故の前日午後九時ころ和穂に無断で被告車の鍵を持ち出し居宅の車庫に置いてあった被告車を運転して約二〇キロメートル離れた友人宅に行って泊り、翌日、友人宅から帰る途中で本件事故を起こしたこと、被告育造は被告龍弥の父親であり、本件事故当時、和穂とともに被告龍弥の共同親権者として被告龍弥を監護養育する義務を負っていたこと、当時、被告育造は、桶川市泉所在の自宅に居住し、被告龍弥とその弟は被告龍弥肩書地所在の和穂の親所有の居宅に居住し、和穂は交互に右両居宅に泊るという生活をしていたこと、一家では和穂のみが普通免許を有し、和穂は被告龍弥肩書地の居宅の車庫に被告車を保管し、本件事故までに被告龍弥の無免許運転を見つけ注意したことが二、三回あったが、車の鍵を厳重に管理するなどして以後被告龍弥が被告車を運転できないようにまではしなかったこと、被告育造は本件事故まで被告の龍弥の無免許運転の事実を知らなかったこと(被告龍弥が本件事故以前に無免許で和穂名義の被告車を両親に無断で運転していたこと、被告育造夫婦が被告龍弥の父母であり、当時親権者であったこと、被告龍弥は和穂から無免許運転につき注意を受けていたことは、当事者間に争いがない。)

以上の事実が認められる。

右認定事実、〈証拠〉によれば、被告育造には、被告龍弥の共同親権者として、和穂とともに、被告龍弥を監護教育する義務があり、従って、日ごろから、和穂や被告龍弥本人と語り合うなどして被告龍弥の行状を把握するように努める義務があり、これを守っていたならば、本件事故前に被告龍弥の無免許運転の事実に気付くことができたであろうと思われ、そのときには、被告龍弥に厳しく注意するとともに和穂に車の鍵を厳重に管理させるなどして以後被告龍弥が被告車を無免許運転することのないような措置をとって被告龍弥が他に危険を及ぼすことのないようにするべきであったのであり、結局、被告育造は、被告龍弥を監督する義務を怠った過失により本件事故を発生させたと認めるのが相当であり、右認定を動かすに足りる証拠はない。

よって、民法七〇九条により、被告育造には本件事故により原告らが蒙った損害を賠償する義務がある。

三抗弁について

被告龍弥本人の供述によっては、被告らが主張するような、本件事故による原告らの損害算定に際し考慮すべき原告文子の過失を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

よって、抗弁1、同2は採用できない。

四請求原因3について

1  原告文子

〈証拠〉によれば、原告文子は、本件事故により、頭部、顔面打撲、右足挫創、頸椎捻挫の傷害を負い、その治療のために請求原因3(一)のとおり入通院したこと、原告文子が右の長期の治療を受けたのは、頸椎捻挫による頭部、項部等の痛みについてであるが、その痛みは通院時よりは少し軽くなったものの現在までほとんど変わらないで続いているようであること、原告文子の症状が固定した時期としては、武重医院への通院を中止した昭和五六年一〇月一三日とするのが適当と思われること、原告文子は、本件事故前には夫の経営する金型製作業を手伝っていたが、事故後は、右症状固定のころまでは通院治療と前記痛みのためにほとんど右の手伝いができなかったようであり、その後も前記の痛みのせいで重い物の持ち運びができなくなったため満足に右の手伝いをすることができず、まもなく右手伝いをやめ家事のみをするようになり、現在に至っていること、原告文子は自賠責保険事務所により等級表一四級一〇号と認定されてはいないが、前記本件事故の態様及び事故後の原告車、被告車の破損状況からみて事故の際の原告文子に対する衝撃は相当強度のものであったと思われ、このことと前記治療経過、後遺症の内容からすると、原告文子の後遺症は右一四級一〇号に準ずるものと思われること

以上の事実が認められる。

2  〈証拠〉によれば、原告春華は、本件事故により頭部打撲、頸椎捻挫等の傷害を負い、その治療のために請求原因3(二)のとおり入通院し(但し、昭和五六年一一月二七日上尾中央病院入院とあるのは通院である。)、その後も、上尾中央病院、国立療養所東埼玉病院等に通院したこと、原告春華が右の長期の治療を受けたのは、頸椎捻挫による頭部、項部、背部、腰部の痛みについてであり、治療は湿布と飲み薬が主であり、痛みは、小学校四年生の終わりころ(昭和五七年二、三月ころであろう。)腰部にまで及ぶようになり、その後現在までそれほど変化なく続いていると思われること、原告春華は本件事故当時小学校四年生であったが、痛みのせいで学校を休むことも多く、欠席日数は、小学校四年生のときが一一日、五年生のときが一二日、六年生のときが二五日、中学校一年生のときが六六日、二年生のときが四二日、三年生のときが四〇日であり、事故の一年後ころからは登校日の朝、痛みを和らげるため父親に体をもんでもらったりしていること、しかし、レントゲン線等による検査によっても原告春華の身体につき客観的異常は見当らず、原告春華の前記痛みが長期間持続する原因としては心因的要素が大きな比重を占めていると思われること、また中学校時代に欠席が多かったのは、前記痛みのために体育や掃除当番を休み、級友との関係が気まずくなったことによるところも大きいと思われること、なお、原告春華は、本件事故の三か月前に道路横断中トラックのフックに左腕を引っかけ骨折していたが、事故後前記のような痛みを感じたことはなかったから、右の痛みに右骨折の事故によるものが含まれているとは考えられないこと

以上の事実が認められる。

右事実に〈証拠〉、前記1のとおり本件事故の際の原告春華に対する衝撃は相当強度のものであったと思われること及び弁論の全趣旨によれば、原告春華の前記症状は、遅くとも昭和五八年四月二二日(上尾中央病院への通院を一旦中止した時期)に固定しており、右後遺症は等級表一二級一二号にあてはまると認めるのが相当である。

〈証拠〉中の原告春華の症状固定日が昭和六一年九月一三日であるとの記載は前記認定した原告春華の痛みが小学校四年生の終わりころからそれほど変化なく続いていると思われることに照らし採用できない。

また、〈証拠〉の記載は、右認定に供した前掲各証拠に照らし採用できない。

五請求原因4について

1  原告文子

(一)  治療費

〈証拠〉によれば、原告文子は、前記傷害の治療費として、上尾中央病院関係で、一万三二五九円を要したことが認められる。

なお、右の費用には前記症状固定後の分も含まれるが、本件においては、これも原告文子の損害と認めて差支えない。

(二)  入院雑費

原告文子の前記入院の雑費としては一日当り六〇〇円と認めるのが相当であり、これに入院日数八日を乗ずると四八〇〇円となる。

(三)  通院交通費

〈証拠〉によれば、原告文子の通院交通費として武重医院関係では往復一回当り二〇〇円、上尾中央病院関係では往復一回当り三〇〇円と認めるのが相当であり、これらに各通院回数を乗じた各金額の合計は二万八七〇〇円である。

(四)  休業損害

前記四1の認定事実、〈証拠〉によれば、原告文子は、本件事故前には、夫の経営する金型製作業を手伝っていたが、事故後前記症状固定時期である昭和五六年一〇月一三日ころまでの六か月間は、通院治療と前記痛みのためにほとんど右手伝いができなかったようであること、事故前の前記事業手伝いによる原告文子の収入は年間一八〇万円程度であったことが認められる。

そこで、原告文子の本件事故による休業損害としては、右年収の半年分(六か月分)である九〇万円と認めるのが相当である。

(五)  逸失利益

前記四1の認定事実によれば、本件事故による原告文子の後遺症は等級表一四級一〇号に準ずるものと思われるから、原告文子の労働能力の喪失割合は四パーセントとするのが相当であり、また労働能力喪失期間は、原告文子の後遺症が前記四1のとおり頸椎捻挫によるものであり、これが長期間持続する原因として心因的要素が大きな比重を占めているとみられることに鑑み、三年間を相当と考える。

よって、原告文子の逸失利益は、

180万円(前記年収額)×0.04×2.731(3年の新ホフマン係数)=19万6632円

と算定される。

(六)  慰謝料

前記四1で述べたところによれば、入通院についての慰謝料としては八〇万円、前記後遺症についての慰謝料としては六〇万円と認めるのが相当である。

(七)  弁護士費用

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、本件事案の内容、審理の経過、認容額等に照らし、二五万円と認めるのが相当である。

2  原告春華

(一)  治療費

〈証拠〉によれば、原告春華は、前記傷害の治療関係費として上尾中央病院等の関係で七万〇九九四円を要したことが認められる。

なお、右の費用には、前記症状固定後の分も含まれるが、本件においては、これも原告春華の損害と認めて差支えないと考える。

(二)  入院雑費

原告春華の入院雑費としては一日当り六〇〇円と認めるのが相当であり、これに入院日数二一日を乗ずると一万二六〇〇円となる。

(三)  通院交通費

〈証拠〉によれば、原告春華の通院交通費として、武重医院関係では往復一回当り二〇〇円、上尾中央病院関係では往復一回当り三〇〇円、大宮赤十字病院関係では一回当り八〇〇円と認めるのが相当であり、これらに各通院回数を乗じた各金額の合計は三万七七〇〇円である。

(四)  逸失利益

前記四2のとおり、原告春華の後遺症は、等級表一二級一二号に当り、これが頸椎捻挫によるものであり、これが長期間持続する原因として心因的要素が大きな比重を占めているとみられることを考慮すると、原告春華の症状固定後の労働能力喪失期間としては、五年間と認めるのが相当であるが、〈証拠〉によって高校進学を希望していると認められる原告春華の高校卒業時には、右労働能力喪失期間が経過してしまっていることとなるから、原告春華につき逸失利益を認めることはできない。

(五)  慰謝料

前記四2で述べたところによれば、入通院についての慰謝料としては一〇〇万円、前記後遺症についての慰謝料としては二一〇万円と認めるのが相当である。

(六)  弁護士費用

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、本件事案の内容、審理の経過、認容額等に照らし三二万円

と認めるのが相当である。

六よって、原告文子の請求は、被告らに対し、各自、前記五1(一)ないし(七)の合計二七九万三三九一円及び内金二五四万三三九一円(前記五1(一)ないし(六)の合計)に対する本件事故の日である昭和五六年四月三日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、原告春華の請求は、被告らに対し、各自、前記五2(一)ないし(三)、(五)、(六)の合計三五四万一二九四円及び内金三二二万一二九四円(前記五2(一)ないし(三)、(五)の合計)に対する本件事故の日である昭和五六年四月三日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官田中哲郎)

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